NHK-BS1「沁みる夜汽車2022冬」が2022年2月27日に放送されました。
https://www.nhk.jp/p/ts/GQ8PWYMK6W/
番組をご視聴いただいた皆様、誠にありがとうございました。
「祖父に贈った写真 500系新幹線」10分版の初回放送が、今夜、2022年3月2日22時40分〜22時50分にあります。よろしければこちらもご視聴ください。
【写真との出会いが人生の道を開いて行く】
1997年2月、一緒に暮らしていた祖父が緊急入院しました。病室から出られなかった祖父は、外の景色を見ることや、音楽を聴くことが何より好きでした。その祖父に外の景色を見せてあげたいと、一番最初に写真で見せてあげた光景が、病院の屋上から撮影した500系新幹線のデビューの写真だったのです。
一緒に風景を見たいけれど、それができなかったのです。
祖父の願う望みが叶わないなら、何とか自分にできることをしようじゃないかと。
私にとっては、それが写真撮影の原点でした。
家族へのささやかな愛から始まった出来事が、私自身の人生の道をも開いて行きました。
学校を休んでばかりの取り柄がなかった私にとって、写真は人に喜んでもらえる唯一の光と希望だったのです。
【祖父はどんな人だったのか】
1997年当時、祖父守谷雅士は、言葉と話し方を研究している日本語の話し方教室の先生でした。「話がうまくできない」という人たちの声と心に寄り添い、人々の悩みをひとつひとつ解決していきました。
祖父の話し方教室では、多くの人たちが話し方を学んでは、立派に育っていきました。
実は、この話し方教室ができた誕生経緯は、戦中から戦後にかけて、祖父は、NHK岡山放送局のアナウンサーをしていたことがきっかけです。当時は、ラジオから流れる祖父の声に岡山の人たちは耳を傾けていました。
戦争中の雄叫び調の話し方から、人々に語りかけるような淡々調の話し方に変わる時代の中で、戦後のアナウンサーのあり方と放送文化を模索しました。
1948年8月31日に放送された「瀬戸内海の旅」では、2分弱の放送に瀬戸内の広がりがまるで光景を見ているかのような美しいアナウンスで表現されていました。この放送は全国放送されて、NHK他局から反響があったほどでした。戦後しばらくしてNHKを退職しますが、1997年2月の入院まで、話し方教室の仕事を続けていました。
【大切なテープレコーダー】
私が幼い頃に興味を示したテープレコーダーは、祖父がとても大切にしていたものでした。
元NHKアナウンサーだった祖父は、NHK退職後も朗読を続けていました。何度も何度も録音を繰り返しては、美しい話し方というものを模索していました。それは奥行きのある立体的な表現ができた感性に響く朗読作品でした。
祖父にとって命のよりも大切なのは、自分の喉。そしてテープレコーダーとマイクと録音したテープを何よりも大切にしていました。「自分が亡くなったらテープレコーダーは崇裕にあげるから」と祖父は度々言っていました。その機材は今も大切に保管して再生するために使っています。
【一枚だけ残った家族写真】
祖父と母と伯母と私が写った家族写真が放送されますが、実は、あの写真は、たった1枚だけ残った家族写真だったのです。家にいるときは、家族全員での写真を撮ることはなかったのですが、祖父が次第に回復してきたので、家族全員で写真を撮ろうと病室で撮影したものだったのです。
祖父と家族みんなで家に帰ることがひとつのゴールでした。
元気になって、家に帰れることを信じていました。
しかしながら容態が悪化した祖父は、病室のベッドの上で、静かに雪が溶けるかのように永遠の眠りについたのです。
まさか25年経ってこのような形で皆様にご覧いただくことになるとは思ってもみませんでした。
かけがえのない家族との思い出。それはとてもとても大切なものでした。
何気ない普段の日常が、とても大事なものであったと改めて思いました。
番組をご視聴いただいた皆様、ご協力いただいた皆様、入院中にお世話になった病院関係者の皆様、番組制作に関わった皆様へ感謝とお礼を申しあげます。ありがとうございました。
【お知らせ】
沁みる夜汽車2022冬 50分版の再放送の日程:2022年3月4日21:00〜21:50
白井崇裕ホームページ
https://takahiroshirai.com
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